やまんばは考える・・・
石のからとで寝るか木のからとで寝るか
今日は寒いからと木のからとで寝ると
天井から牛方がするすると降りてきて
湯を沸かし、キリでちいさな穴をあけて
熱湯を流し込む。
やまんばの叫び声が山を震わせる。
「うしかたとやまんば」という絵本を読んだ。
子どもに読み聞かせした。
大きな牛にたくさんの塩サバを積んで
牛方が峠を越えようとしていた。
あとちょっとというところでやまんばに見つかってしまう。
「うしかた~。サバをくれ~」
やまんばはバリバリとサバを平らげていく。
何匹も何匹も。
そしてしまいには牛までもバリバリとかみ砕いて食べてしまう。
そんな話を子どもに読み聞かせていると
ブラジルのサンバの名門「マンゲイラ」の黄金時代を築いた
カルトーラを思い出す。
名曲は多いが、有名なのは「人生は風車」
あのギターとフルートが何ともいえない切なさをかもし出す。
我々の夢や希望を人生という風車がバリバリと壊していく。
そう民話のなかのやまんばのよう。
人生はやまんば。
我々のちいさな夢や希望、安らぎをバリバリと食い尽くしていく。
牛方はやまんばから逃れるため必死で走る。
人が忙しいとかって言ってるのは命に別状はない。
けれど何でもバリバリと食べつくしてしまうやんばに追いかけられたら
どんな人でも必死に逃げるだろう。
牛方は地をはうように走って逃げる。
そして池のそばに立つ木に無我夢中でよじ登る。
水面を見ると自分が映っている。
もうおしまいだと思う。
しかしやまんばは水面の牛方に飛びかかる。
危機一髪で逃れた牛方は
一軒の古い民家を見つけ助けを求める。
しかしそここそがやまんばの家であり
疲れたやまんばの寝床である。
足音が聞こえてきた。
戸をぎしぎしいわせながら開ける。
戸口には頭の先から足の先まで濡れそぼった
やまんばが立っている。
心なしかその目に獰猛さは残っていない。
おそらく我が家へ帰った安心感だろう。
そんな恐ろしい生き物にも心安らぐ場所があるのだ。
またしても牛方は天井の梁に登って難を逃れた。
人間というものは恐れを知らない。
牛方は腹が減ったので
やまんばが焼いているもちを盗み食いしたのだ。
餅だけではなく今度は甘酒までも!
どうしてなくなったのかわからないやまんばはあきらめて寝ることにした。
そうして思案する。
石のからとに寝ようか、
それとも木のからとがよかろうか・・・
昔ばなしは教えてくれる。
ピンチになったら高いところへ登れ、と。
だいたいそれは選べない。
目の前に木があったから登ったし
天井にしか隠れるところがなかったから登った。
人生は地面にはいつくばる人に厳しい。
追って来るものを気にしたり
下ばかり見てしまう。
今年は飛躍の年にしたい。
なんでもいいから木に登ろうと思う。
それはきっと今までと違う眺めだ。
物凄い顔のやまんばも見えるけど
水面に映った自分の姿も見つめることができる。
そして遠くの道すじがきっと見えるはずだ。